アリ(蟻、螘)は、
ハチ目・スズメバチ上科・アリ科
(Formicidae)に属する昆虫である。
体長は1 mm-3 cmほどの小型昆虫で、
人家の近くにも多く、
身近な昆虫のひとつに数えられる。
原則として、産卵行動を行う少数の女王アリと
育児や食料の調達などを行う多数の働きアリが
大きな群れを作る社会性昆虫。世界で1万種以上、
日本で280種以上がある。種類によっては食用となる。
基本的にはハチと共通の特徴を持つ。
体はおおむね円筒形で細長く、
頭部、胸部、腹部のそれぞれの間が
くびれ、大きく動かすことができる。
腹部の前方の節が細く
くびれて柄のようになった「腹柄節」は
昆虫でもアリだけにある器官であり、
狭い穴の中での生活に
適応すべく役割を果たしている。
体色は黒いものが多いが、
黄色、褐色、赤色などの種類もいる。
頭部には大顎が発達し、
餌をくわえたり外敵に噛みついたりできる。
複眼はあるが、単眼は退化するものが多い。
1対の触角が発達しており、
その基部の節が特に長く柄節といわれる。
そのため触角全体としては
この節の先で折れ曲がり、くの字型をなす例が多い。
胸部は体の中央にまとまっているが、
これは実際には四つの節からなり、
前中後3節の胸部に、腹部第1節が癒合したものである。
歩脚3対はよく発達する。
腹部前端には柄のように狭まった部分があり、
これを腹柄部という。腹柄部は一節ないし二節からなる。
後端にはハチと同じように毒腺を持ち、
針で刺すことのできるものも少なくない。
社会性昆虫であり、同種であっても、
カーストによって形態が異なる。繁殖をする雌雄(雄と女王)、
それに働き蟻(雌)は形態的に区別できる。働き蟻の中に、
さらに複数の形態差が見られる場合もある。
繁殖行動を行う雄アリと雌アリには翅がある。
女王は、後に翅を切り離して無翅になる。
それに対して、働き蟻は当初から翅を持たない。
数の上では、これが圧倒的に多いので、
一般的にはアリは無翅の昆虫との印象がある。
針と毒腺
日本で人家の周囲に見られる
アリの多くは針を持たず、
持っていても針が脆弱で
あまり刺さない種類が多い。
しかし、特殊化の進んだ
ヤマアリ亜科やカタアリ亜科のアリを除けば、
系統的には針を持つものが多数派である。
熱帯には、積極的に針で攻撃する種が多い。
かなり高等な分類群でも、
フタフシアリ亜科は針を持つ。
針を持たなかったり、
刺すほど強靭な針を持たないアリは多くの場合、
毒液を敵や獲物の体表に付着、
或いは飛ばして相手を攻撃する。
針を持つ種類はハチと同様に
針を使って毒液を注入する。
毒液の主成分は蟻酸とされていることが多いが、
これはヤマアリ亜科に限られる。
これと同様に針を持たないカタアリ亜科や、
針を持つフタフシアリ亜科の中でも、
刺すだけではなく噴き出した毒液を
直接相手にかける使い方もする。
シリアゲアリ属のアリは、
別の種類の刺激性物質が主成分である。
針で刺して攻撃するアリの毒は、多くのハチと同様、
タンパク質やペプチド
その他の生理活性物質の混合物である。
熱帯性の大型種の毒は、
刺したときにスズメバチと同程度の
激しい症状を引き起こす。
日本でも、暖地にある人家周辺に
多いハリアリ亜科のオオハリアリ、
寒冷地では草木の上でよく活動している
フタフシアリ亜科のクシケアリ類が
かなり強力な毒針を持つ。
また人家内に生息する
フタフシアリ亜科のイエヒメアリも、
微細ながら積極的に針で人体を刺すため、
ちくちくした不快感を持つ被害がある。
アリは人間になじみのある昆虫の中では小さいことから、
人間から見れば弱い存在と思われがちだが、
肉食のものが多く活発で攻撃力があって集団をなすことから、
他の昆虫にとっては恐ろしい存在である。
さまざまな生態系でアリは最も重要な小動物の捕食者である。
熱帯雨林では植食性動物ではシロアリ、
肉食性動物ではアリが人間のバイオマスに
匹敵するほどの大きなバイオマスを誇っているほどである。
またアリグモという、
アリに擬態しているクモがおり、
かつては仲間と思って近づいてくる
アリを襲うと信じられていたが、
現在ではむしろアリの姿でいることで
他の動物からの攻撃を避けているとされる。
ツノゼミなどが世界各地で報告されている。
これは蜜でアリを誘引し、その付近にアリを常駐させ、
彼らに植食性の昆虫を襲わせることで
体を守る適応的意義があるとされている。
また植物の中には、アリに住まいを提供し、
それらによって害虫の影響を
排除しているアリ植物も知られている。
蜜を出すのも同様な理由と考えられる。
ほかに、アリに種子を運ばせるように
適応したと思われる植物が多数ある。
それらは種子にエライオソームと呼ばれる柔らかな付属物を持ち、
これがアリの餌となるとされる。しかし、
これはアリの卵に擬態しているのではないかとの説もある。
他方で、その量が多いことから、これを専食する動物も知られる。
モロクトカゲが有名で、
この両者は形態や行動にも似たところが多く、
収斂進化の良い例である。
日本ではアリスイ、
アオオビハエトリやハリサシガメがある。
名前の上ではオオアリクイというのがあるが、
これはむしろシロアリ食である。
その他、アリの巣には特有の昆虫などが
同居していることが知られている。
それらの多くはアリの巣のみから発見されるが、
アリとの関係は様々である。
たとえばクロシジミは若齢幼虫がアリによって
巣内に運び込まれ、アリに餌を与えられて育つ。
その他にアリスアブや
それらをまとめて好蟻性動物あるいは
大抵は昆虫なので好蟻性昆虫と呼ぶ。
体にアリをたからせるものがおり、
蟻浴(ぎよく)と呼ばれる。これには、
蟻酸により寄生虫を退治する効果があるといわれているが、
詳しいことは分かっていない。
籠の中に生きたアリを入れてやると、
素早く捕獲してくちばしに挟んだまま
全身に擦りつける動作が観察できることがある。
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